第12回 胃潰瘍


 胃潰瘍とは
 潰瘍とは皮膚や粘膜がただれてえぐれた状態です。胃に潰瘍が出来ることを胃潰瘍、十二指腸に潰瘍が出来ることを十二指腸潰瘍といいます。

 原因
 胃の働きは食べものの消化です。胃の中には胃酸が分泌されていて、肉でも魚でも胃の中に入るとで元の形が全くなくなってしまうまでドロドロに消化されます。でも自分の胃袋は消化されないという事は、よく考えてみると不思議なことです。これは胃の内側に胃酸に対する強力な抵抗力があるからだと言われています。
 ところがなんらかの事情で胃酸の力が強くなりすぎたり抵抗力が弱まったりすると自分の胃や十二指腸が自分の胃酸で消化されて傷ができます。これが胃潰瘍や十二指腸潰瘍です。
 胃酸の力が強くなったり、粘膜に抵抗力が弱まる原因がよく言われるストレスとか、タバコのみすぎとか、カゼ薬の副作用とか、暴飲暴食などです。

 症状
 胃腸の内側に傷ができるのですから痛みます。その他に胸焼け、食欲不振など胃腸の症状がいろいろでます。出血もします。出血は激しいときには吐血やタール便(真っ黒い血便)になります。またえぐれの程度がひどいと壁に穴がつっぽげて胃の中身が腹膜に漏れだします。これを穿孔といいます。緊急手術の対象です。

 診断
 症状と診察で潰瘍の可能性がある時は検査します。検査をすれば確実にわかります。検査のことは、けんこうニュース10回号『胃の病気と検査』に書きました。

 治療
 ストレスとかタバコののみすぎとか原因がある時はまずそれを処置します。食事は消化の良いものをよく噛んでゆっくり食べます。暴飲暴食をさけます。要するに胃にこれ以上負担をかけないことです。
 薬は胃酸の力をおさえる薬と、粘膜の抵抗力を強くする薬を組み合わせます。

 潰瘍の再発
 潰瘍は再発しやすい病気です。その時の潰瘍は薬で数か月の内に治りますが、しばらくするとまた新しく潰瘍ができる事はとても多いものです。長期間での潰瘍の再発率は90パーセントといわれています。
 再発に影響する要因としては@くすりの中断、A精神的過労、B肉体的過労、C睡眠不足、Dタバコ、E不規則な食事があげられます。
 くすりの継続は明らかに再発予防効果が認められています。だから潰瘍の薬は年単位で使います。もちろん自覚症状がなにも無いのに薬を飲み続けるのは気持ちの良い事ではありません。ですからきちんと定期的に検査を受けて必要最小限の投薬量に限定するべきです。

 胃潰瘍の人はガンでは死なない?
 医者同士でよく冗談に『胃潰瘍の人はガンでは死なない』といいます。これはどういう事かといいますと、潰瘍の患者さんは定期的に胃の検査を受けます。このためもし胃ガンになっても早期発見、完治できるという意味です。
 また血液検査なども健康な人に比べてひんぱんに受けることになります。それで他の病気も早期発見、治療できる可能性が高いのです。実際、筆者が長く診せてもらっている患者さんの中にも、もともと胃潰瘍だったけど別の病気が見つかってすぐ治療したので命拾いしたという人が何人もおられます。
 そう考えてみると潰瘍が持病という事は必ずしも悪いことではなく、うまくすれば長生きの秘訣にできるかもしれません。
 ヘリコバクター・ピロリ:最近、潰瘍の再発にはヘリコバクター・ピロリという細菌が関係しているのではないかと話題になっています。実際アメリカでは再発予防に抗生物質が試みられています。この学説は未確定ですが期待されています。