第14回 クスリ、いつまでのむのか?


 薬は病気を治してくれる強い味方です。でも使い方を誤ると効きません。副作用の危険もあります。上手な使い方のポイントのひとつにいつまでのむのか、という問題があります。具体例をあげて、説明いたします。

 (1)糖尿病、高血圧、高脂血症など(成人病の多く)
 残念ながらこういう病気をもとから治す薬はまだ見つかっていません。現代医学の実力はそこまで達していないのです。
 しかしこういう病気では放っておくとその次に動脈硬化とか内臓障害が起こります。命にかかわります。それで元からは治せないけれど、とりあえずいまの血圧とか血糖値を正常化させてその次のトラブルを予防する治療をします。これをコントロールといいます。
 薬を飲んでいる間は病気がコントロールされています。しかし元から治している訳ではありませんから、うっかり薬を止めてしまいますと状態は再び悪化します。そして体が次第にむしばまれて行きます。ですから本人はどうもなくても医者の指示に従わなくてはならないのです。
 ところが、こういう病気の場合は食事療法とか運動療法とかで薬の量が減らせる事が多いのです。安易に薬に頼らずに自分で努力することが大切です。

 (2)胃潰瘍など(検査で、はっきり分かる慢性疾患の一部)
 本当はまだなおっていないのに、患者さんがもう治ったかと早合点してやめてしまう事が多いのです。
 でも症状が取れたからといって病気も治っているとは限りません。例えば胃潰瘍では、普通痛みが取れても、少なくともあと何カ月かは薬を飲まなければ完全には治りません。また治ってからも少量を続ける方が、再発の予防になります。
 薬を必要最小限に済ますためには、定期的に検査を受けるのが一番安全です。

 (3)風邪、感冒性胃腸炎など(一時的な軽い病気)
 カゼがもとから治せる薬が見つかったらノーベル賞と言われています。カゼの時はあれこれ薬を飲むよりも暖かくして良く寝るのが一番効果的です。また薬をのんでもよく休まなければ効きません。クスリは症状を軽くするだけで、あくまでも補助治療です。
 カゼ薬は症状が取れてきたら自分の判断で減らして止めても構いません。

 (4)抗生物質(細菌感染症)
 肺炎、膀胱炎などバイ菌の感染でおこる病気は元を断つことで完全に治せます。きちんと元を治せばあとは心配いりません。元が治ったと言うことを確認することが大切です。

 (5)過敏性腸症候群、更年期障害、肩凝り、不眠症など(機能性疾患)
 こういう病気では検査はあまり役立ちません。内視鏡やレントゲン、血液検査の結果は正常、または軽度異常なだけです。でも本人は症状があって本当に困っています。自覚症状は検査ではなかなか分からずに、患者さん自身の感じが一番あてになる事が多いのです。
 また薬の効果も個人差が大きいです。きちんと定期的に服用しなければ効かない人もいますが、半分量で効く人もいます。不定期で大丈夫な患者さんもいます。ですからこの目的で使う薬は、症状が落ち着いてきたら、患者さんが自分の判断で一寸量を減らしてみたり休んでみたりする事をお勧めします。自分に合った薬の量と使い方を自分で探してみる事が大切です。