第15回 打診で何が分かるのか?


 日頃から診ている患者さんが健診で受診されました。胸部の打診をしていますと質問されました。『センセイ、そこば叩いて何が分かるとですか?』これは楽しい質問です。診察を受けて疑問をもつ患者さんは多いはずです。でもその疑問をストレートに医者にぶつけてくれる患者さんは多くない。わざわざ筆者に尋ねてくれたのは、よほど筆者を信頼してくれての事、とうれしく感じました。

 さて内科の基本的な診察として問診、視診、触診、打診、聴診があります。
 『問診』というのは、いつごろからどんな症状があるのか等を患者さんにインタビューして診断する技術です。
 『視診』というのは皮膚や口の中などを観察して診断する技術です。『触診』というのは脈やお腹などを触って診断する技術です。
 『打診』は体の各部分を叩いて診断する技術、『聴診』は主として聴診器を使い体の内部の音(心臓、肺、腸などの音)を聞いて診断する技術です。

 昔は現在の様な検査はありませんでしたから、人間の五感を駆使して診断しました。今ではレントゲンや血液検査などが発達してこういう技術は以前ほどは重視されなくなりました。しかし今でも診療の現場では重要な意義を持っています。
 なぜならこの診察技術を使えば、簡単な道具だけで即座に重要な情報が得られますし、またこの技術で得られた情報はレントゲンや血液検査を解釈する時、重要な資料となるからです。
 ところで筆者としては、患者さんにも診察についてある程度は知っていて欲しいと思います。それは 患者さんの健康の自己管理に役立つと思うからです。

 打診の技術
1)まず部屋の壁を打診してみましょう(右図)
 左手の中指のまんなかの骨の腹側を診察する物に密着させます。そして右手の中指の先端で左手の中 指の背中側を叩きます。どんな音がするかよく聞いて下さい。中が中空になっている場合はコーン、コ ーンと響きます。物が詰まっている場合はコツコツと響きます。慣れると左手の指に伝わる感じでも分 かるようになります。
 まずこの技術で部屋の壁や机を叩いてみましょう。スイカも叩いてみましょう。

2)自分で自分の打診をしてみましょう
 打診の方法が分かったら自分で自分の胸やお腹を打診してみましょう。
 正常の肺は中に空気がいっぱいにつまっていますからたたくとコーン、コーンと響きます。心臓や肝臓は中に細胞や血液がぎっしりと詰まっていますからコツコツと響きます。この性質を利用します。
 @心臓、肝臓が腫れていないか
 肺と肝臓の境界は乳首の足側でおよそ6番目の肋骨(体表から触って鎖骨から順番に数えれば分かります)の位置です。(右図)
 心臓と肺の境界は上がおよそ第3肋骨、右が胸の中央よりわずかに右側、左が乳首のやや内側です。心臓や肝臓が病気で腫れると打診で分かります。
 A肺炎や結核
 正常の肺は空気をいっぱいに含んでいますが、肺炎や結核がひどくなると血液や膿(うみ)などがたまってその部分は打診上、音が違って聞こえます。
 B腹部の打診
 お腹の打診でも情報が得られます。お腹が張っているのはガスのせいなのか、便が詰まっているのか。その分布はどうなっているのか、これを触診、聴診と組み合わせると非常に多くの情報を得ることが出来ます。

3)自分の日頃の体調を把握しておく
 日頃から自分自身を打診して体調を把握しておきましょう。寝る前や朝起きたとき布団に仰向けになって行います。医者にかかるときはその様子を医者に伝えます。それは本当に有用な情報になります。