第22回 不眠症の話
明日は大切な予定が入っていて今晩はよく寝ておきたいのに、なかなか寝付けない、
焦れば焦るほどますます寝付けないでイライラする。そういう経験が全くない人はめず
らしいです。不眠症に関する相談は内科ではもっとも多い相談事の一つです。
1、睡眠不足では死なない
もし人間を眠らせずに奴隷の様に強制的に仕事をさせると、たぶん病気になります。
最終的には死んでしまうかも知れません。しかし現代の日本の社会ではそういう事はあ
り得ないでしょう。それに似た状態として、仕事が忙しく眠る時間を十分に取れない事
はあるかも知れません。その場合は疲労がたまって病気に対する抵抗力が弱くなるかも
知れません。
しかしそういう場合の睡眠不足と不眠症の人の睡眠不足は違います。忙しくて睡眠不
足の人は普通は医者には来ません(来ても治らない)。これに対して不眠症の患者さん
では睡眠不足自体はそれほどひどく無いのに、むしろ睡眠不足に伴う不安感の方が問題
の場合が多いのです。まず不眠症による睡眠不足では死ぬことはないし、病気になる心
配もない事を理解して下さい。
また@寝付けない時は、体が眠りを要求していない場合も多い、A目をつぶって横に
なっているだけで体は休まる、Bよく眠れなかったと感じても実際には寝ている事がよ
くある、とも言われています。
しかし実際問題として睡眠不足の時は、頭がぼーっとする、体がだるい、と感じます。
また頭痛持ちの人は、睡眠不足で症状が悪化しやすいものです。ですから快眠を得る事
は日常生活を快適に過ごす上で大切な要素のひとつである事も確かです。
2、生活上の注意
まず規則正しい生活に努めましょう。人間は本来夜行性ではなく、夜になると眠くな
る性質をもっています。ところが不眠症の患者さんの中には、不規則な生活習慣のため
にその性質を失っている人がかなりいます。仕事の都合などで思う様にゆかぬ事もある
かもしれませんが、だからといって不規則な生活を続けていては不眠症は治りません。
また運動不足に注意しましょう。運動不足でしかも精神的に疲れている時は、なかな
か寝付けないものです。
昼寝は、睡眠不足を補うには大変効果的ですが、うっかりするとその晩寝付けない事
がありますから注意が必要です。
3、眠れないときどうするか
@散歩をする:夜間、女性ひとりでは困難かも知れませんが、気分が変わりますし、
運動不足解消にも役立ちます。
A本を読む(おもしろい本はダメ)
BカセットやCDを聞く(語学講座などが良い):筆者自身はこういうときには
前々から聴いておきたかった勉強のテープをよく聴きます。面倒くさくてついつい後回しにしてきた物です。
こういうテープは実際5分も聴いているとすぐに眠くなって効果絶大です。もしこのテープが最後まで聴けたら、
その場合は前から気になっていた勉強がひとつ片づいた事になりますのでそれでも良いのです。
4、睡眠薬
現在一般に使用されている睡眠薬は精神安定剤と同系統の薬物です。安定剤は副作用
で眠くなる事が多いのですが、これを逆に利用したのが睡眠薬です。
薬ですからのまないで済めば、その方が良いのは当然です。しかし例えば寝酒よりず
っと安全であることも事実です。余談ですが、アルコールは医者からみれば立派な薬物
です。その効能は食欲増進、精神安定作用などですが、同時に副作用として胃、肝臓、
膵臓などを痛める危険があります。ですからおいしく楽しく飲むアルコールはよろしい
のですが、寝付けないとき無理に飲むのは大変危険です。
睡眠薬の主な副作用は@夜中にトイレに行くと、足がふらつく事がある(高齢者に多
い)、A翌朝、薬が体内に残っていて頭の重いことがある、の2点です。
睡眠薬は服薬すると30分くらいでスーと眠くなります。この時を逃すと効果がグッ
と落ちますから、布団などすっかり準備してから使用するのがコツです。また薬が翌朝
まで残らないために、使うなら遅くならない内にのんでしまうのもコツです。
この薬は毎日使っていると慣れて効かなくなる事がありますし、はじめから効かない
人も時々あります。そういう場合は担当医に相談して薬を増やしてもらうという方法も
あります。しかし、それでもダメなときはあきらめるしかありません。そして、はじめ
に書きました『睡眠不足では死なない』ということを思い出して下さい。気分をかえて
秋の夜長を楽しみましょう。
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