第25回 カゼの話


1.普通感冒とインフルエンザ
 カゼは大きく普通感冒とインフルエンザに分けられますが、どちらも喉や鼻を中心と したウィルス感染です。普通感冒はライノウィルスやアデノウィルスなどという弱毒性 ウィルスでおこります。これに対してインフルエンザはインフルエンザウィルスという 強毒性ウィルスでおこり、症状が激しいのが特徴です。
 両者を正確に区別するには血液検査やノドの粘液の精密検査が有効ですが、標準的な 方法では判定に3〜4週間かかります。そして普通感冒とインフルエンザの治療原則は 以下に書く様に共通です。ですから臨床現場では両者を厳密に区別する検査は省略する 事が多いのです。

2.特効薬はない
 ウィルスを殺す薬は原則的にはありません(けんこうニュース4号)。というのは、 ウィルスは細菌と違って細胞がありませんから抗生物質が効かないのです。カゼで抗生 物質を使う場合もありますが、それはカゼに細菌感染を併発している場合や、厳密には カゼとは違う場合です。純粋なカゼだけなら抗生物質は不要ですし、不要な薬は使わな いのが常識です。
 ですからカゼの治療で一番大切な事は暖かくしてよく休み、本人の体力(抵抗力や免 疫力)による回復を待つ事です。いわゆるカゼ薬は症状を和らげて本人の回復力を補助 するだけです。

3.感染初期の対応が大切
 カゼに対する抵抗力は局所の抵抗力(鼻や喉の粘膜の血流)と全身の免疫力(抗体) の2つで決まります。
 局所の抵抗力に関して言えば、まず、カゼが冬に多いのは寒さと空気の乾燥のためと 考えられています。つまり寒さのために粘膜の血管が収縮し血流が減って抵抗力が低下 するから、という訳です。
 また全身の免疫力(抗体)は非常に強力で、たいていはこれで風邪は治ってしまいま す。しかし抗体が動員され反応するのに1〜2日かかり、素早くは反応できません。そ してそれまでにこじらせてしまうと治りにくくなります。ですから抗体が反応するまで の間の対応が大切です。
 例えば鼻水、ゾクゾクのみの時は局所の抵抗力で対応している時期です。この時期は 暖かくして少しでも早く寝るという処置がとても大切です。こうすると鼻の粘膜に血液 がたくさん供給されるので、薬を使わなくても鼻水が止まり治ってしまう事もあります。
 もし忙しくて寝ることが出来ないときは、せめて1枚余分に着て暖かくする、背中に カイロをあてる(貼る)、暖かいものを食べる等の処置をすると幾分効果があります。
またこの時期に、適切な薬、例えば葛根湯(漢方薬でカゼの初期によく使う)などを、 のむのも良い方法です。要は抗体が動員されるまでこじらせないで待つ事です。

4.カゼの予防
@抵抗力をつけるという意味で、日頃から栄養バランスの良い、規則正しい食生活を心  がける事、暴飲暴食をしない事が大切です。
A運動不足に注意し、休養と睡眠を十分にとる様にします。
B病原体の体内への侵入を防ぐ意味で、外出から帰ったら手洗い、うがいをする事。
Cチョッキの様なものを1枚余分にカバンに入れておいて、こまめに着たり脱いだりして体温調節をはかる事は大変有用です。

5.薬については、以前詳しく書きました(けんこうニュース9号)。
 大切な事は、
@カゼが元から治る薬はありません、カゼ薬は症状を一時的に和らげるだけです。こう いう薬は症状が改善して来たら、自分の判断で減らしたり止めてみて構いません。
A軽いカゼでは薬は不要です、ちょっとした症状なら売薬でも十分対応できます。
B症状が強い場合は、単なるカゼではない場合もあるので医者の薬の方が安全。
C注射の効果は全くの一時しのぎに過ぎない。  という事です。

6.食事、風呂、その他
 食欲があっても腹八分、ました食欲がない場合、無理に食べるのは禁物です。人間の 体は正直です。食欲が無いのは胃腸が休ませて欲しいというサインを出しているのです。
こういう時に無理に食べると益々調子が悪くなってしまいます。自分の体の要求をよく 観察して、本当に食べたい物をほどほどに食べるのが良いのです。
 風呂はその時は体を暖めるが、湯ざめする事があるので要注意です。入らないのが無 難でしょう。民間療法として卵酒、しょうが湯、ねぎスープ、みかん湯、だいだい湯等 は有効です。工夫次第でなかなか楽しめます。