第30回 膵臓の話


 膵臓病は恐いとよく言われますが、家庭医学の本にはほとんど何も解説されていないので益々恐いイメージですね。敵を知れば恐れるにたらず。今回は膵臓の事を書きます。
 膵臓は左の上腹、胃の裏側にあります。上腹というよりはむしろ背中に近いところです。重さ約75グラム、大きめの明太子くらいの大きさです。
 膵臓の働きは2つ。第一は消化液(膵液)を分泌すること、第二はインシュリンなどのホルモンを分泌する事です。
 膵液は膵臓細胞から膵管という管に分泌されます。ちょうど小川が集まってだんだん大きい川になる様に、細い膵管が順次集まり太い膵管になります。最終的には胆管(肝臓や胆のうからの管)と合流して小腸の始めの部分(十二指腸)につながっています。ここに分泌された膵液は胃から送られてきた食物と混ざって消化の働きをします。

 膵臓病の代表は膵炎です。これは、何らかの原因で膵臓内の膵液の流れが悪くなって、滞った消化液のために自分の膵臓が消化される状態です。原因はいろいろですが、実際に臨床現場で多いのはストレス性またはアルコール性ないしこれらの複合性と思われるケースです。ですから働き盛りの男性に多いのです。症状は、自分の膵臓が消化されるのですから膵臓の痛み、つまり左の上腹から背中にかけての痛みです。
 実は私は−自慢にはなりませんが−35才の時に膵炎になりました。総合病院の消化器科医長として張り切って仕事をこなしていた頃でした。1年くらい胃のあたりに軽い鈍痛がしていました。胃薬で様子を見ていましたが痛みが強くなる傾向でしたので、友人に頼んで胃カメラをしてもらいました。その結果は正常。ではいったいこの痛みは何なのだ?という事で調査してみたら膵臓でした。主治医からストレス+アルコール性と言われました。ストレスは勤務先の病院にお願いしてスタッフを増やしてもらうことで少し緩和されました。と同時に禁酒、3年間一滴も飲みませんでした(今は飲みます)。自分の経験から、私は胃の痛みで相談に見えた患者さんにも、出来るだけ膵臓や胆のうなど『胃のまわりの検査』も同時に受けていただく様に勧めています
 私の膵炎はゆっくり軽く来ましたので大事にはいたりませんでした。アルコールを数年我慢する事で回復しました。しかし急激に重症の膵炎になると非常に死亡率が高いのです。また養生が悪いと膵臓がボロボロになって、糖尿病など全身に影響が出ます。やはり膵炎は恐い病気だと思います。


 もうひとつ膵臓の病気で恐いのは膵臓ガン。膵臓は体の奥深いところにあり、内視鏡も入りませんから、発見が困難で手遅れになりやすいのです。しかしガンの場合も膵液の流れが悪くなりますので軽い膵炎を併発する場合が多く、これを見逃さずに精密検査をすれば早期発見も可能です。思いあたる症状の方は、ぜひ一度受診を勧めます。

(膵臓の検査)
 一番簡単なのは血液検査。アミラーゼやエラスターゼ1など本来膵臓から十二指腸に流れて行く酵素の血液中濃度をチェックします。表ページに書きましたように膵炎では膵液の流れが悪くなりますので、酵素が血液中に漏れてきて濃度が増えます。尿中のアミラーゼを測定する方法もあります。
 次に簡単なのはエコー検査。しかし膵臓は胃の裏側にあるので腹の表面からでは間に胃を挟んでおり、観察困難な場合もしばしばあります。
 以上が一番基本的な検査です。これらで異常があれば次の段階の検査に進みます。
次に特殊な検査です。
 超音波内視鏡。これは胃カメラの先端に超音波装置が付いている物です。この装置で観察しますと、胃に邪魔されないで膵臓を見ることが出来ます。
 また内視鏡を十二指腸にある膵管の出口まで入れ、そこから膵管にビニールチューブを挿入し造影する方法があります。内視鏡的逆行性膵管造影といいます。
 CT検査も有用です。必要に応じてします。