第31回 肝機能障害の話


 GOTやGPTという言葉は、大抵の方は耳にされたことがあるでしょう。ところがこれは日本人にはなじみの言葉ですが国際的には通用しない、いわゆる和製英語なのです。それで最近ではこれらに代わってAST、ALTという呼び方に代わりつつあります。整理しますとGOT→AST、GPT→ALTです。
 今回はこれらに関わる事を書きます。

 まず肝臓は右上腹部に中心をもつ重さ約1200gの内臓です。見た目にはブタの肝臓(レバー)と大体同じです。顕微鏡で見るとちょうど『数の子』や『筋子(すじこ)』の様に細胞がぎっしりと詰まっています。胃腸で吸収された栄養物や体内の老廃物は、血管を通じて肝臓に運ばれ、細胞に取り込まれ代謝されます。このため細胞の中には酵素がたくさん含まれています。この酵素の代表がASTやALTです。
 古くなった細胞は、皮膚やその他の臓器と同様に、順次壊され新しい細胞と交代します。ところが何らかの事情で肝臓の細胞が一度に病的に沢山破壊される事があり、これを『肝障害』と言います。肝障害になると細胞の中身が血管にそのまま漏れ出て来ます。この結果、血液中の肝臓酵素の濃度が高くなります。腕から採取した血液で肝臓の様子がわかるのは、こういう仕組みなのです。

 さて肝障害の中で怖いのはB型やC型の『慢性ウィルス性肝炎』です。これは長期的には発ガン性があるので、必ず肝臓病専門医の厳重な管理下に置かれなければいけません。ですから肝障害が見つかったら、一度は肝炎ウィルス性の検査をします。

 しかし実際に多いのはいわゆる『脂肪肝』です。脂肪肝とは肝臓に脂肪がたまっている状態で、肥満、酒の飲み過ぎなどが原因です。たとえで分かりやすく言うと、ちょうど満員電車の中に更に人や荷物が入って来ると軟らかい物から押しつぶされる様に、脂肪で肝細胞が押しつぶされて肝障害が生じるのです。そうです。肝細胞のほうが脂肪より軟らかいのです。肥満が直接原因の事が多いのですが、同時にアルコールを飲むと肝臓内で脂肪の代謝がスムーズに行かなくなり、さらに脂肪がたまり易くなります。

 もうひとつよく耳にするのは『アルコール性肝障害』でしょう。これはアルコールの直接毒性による肝障害です。そして実際の臨床では『肥満+アルコールによる脂肪肝』がとても多いのです。これらの場合、特別にクスリをのまなくても、肥満を解消してアルコールをセーブすれば良くなります。
 しかし、ここで甘く見て不摂生を続けますと『アルコール性肝硬変』となる可能性があります。これは肝障害の終末像で肝臓が繊維化して、硬く変化した状態です。もう元には戻りません。アルコール量が1日平均160gで20年以上の人は、約50パーセントの確率で肝硬変になると言われています。
 こうなる前に自分でコントロールすることが大切です。

(更に詳しい話)
 さてこれから後は更に詳しい話です。興味がある方のみお読みください。
 一般に肝障害=肝機能障害といいますが、厳密には違います。
 肝障害はいま書きましたように血液中の酵素の濃度が増加している事です。これに対して肝機能障害とは肝臓の機能が障害を起こしている状態、つまり機能障害のために体に有害物質がたまって意識が変になるとか、腹水がたまるとか・・・そういう状態を呼びます。
 本当の肝機能を知るには試薬(肝臓で分解される)を注射して一定時間後にその試薬がどのくらい残っているかを調べる方法が代表的です。