第32回 近年、大腸ガンの増加に伴い大腸ガン検診が積極的に行われています


 (1)検便
 大腸ガン検診の第一歩は検便です。これは大腸ガンが出来てある程度の大きさに成長すると、そこから出血するという性質を利用したものです。試薬の付いたスティックを便に刺し、眼に見えない微量の血液反応を調べます。以前は刺身や生焼けの肉を食べると病気でもないのに反応が出る事が時々ありましたが、現在の方法ではそういう心配はありません。また胃や歯、鼻からの出血は胃酸で消化されて反応しません。ですから、この方法で陽性なら腸か肛門(痔)に出血がある事は確実です。
 福岡市の行っている大腸ガン検診では、40才以上の市民に年に一度、検便を2回連続で行い、1回でも陽性の場合は精密検査としていますが、この成績によりますと精密検査を受けた25人に1人の割合で大腸ガンが見つかりました。成人に大腸ガンがある確率は1000人に1人と言われますから、これは驚異的な数字です。

(2)大腸カメラ
 検便で異常の見つかった方は大腸の精密検査を受けていただきます。
 精密検査には、内視鏡検査とX線検査があります。内視鏡検査の方が@診断精度が高い、A生検(次の段階の精密検査)がその場で可能、Bコストが安い、などの点で有利なので、原則としてこちらで検査します。しかし内視鏡は@当院では午後にしか出来ない、A少数ながら内視鏡の入りにくい方もある、という欠点もあり、必要に応じてX線検査もいたします。

*全大腸内視鏡検査、TCS(Total Colono Scope)
 肛門から内視鏡を挿入して盲腸まで観察します。
 月・火・木・金曜の午後、検査します。
 検査日の朝、自宅で2リットルの液体下剤を飲みます。昼過ぎ来院します。
 14時半から検査を開始します。検査時間は30分程度です。検査中は患者さんもテレビで自分の腸の中を見る事が出来ます。怪しい所見があれば、鉗子でサンプル(病理標本)を採取します。検査終了後、約30分休憩します。そのあとは帰っても構いませんが、もう少し待っていただけば、結果を説明します。内視鏡がスムーズに入らない場合は、後日X線をします。
 生検した場合は約2週間後に結果が全部出揃います。

*略式の大腸内視鏡(S状結腸カメラ)
 TCSは医学的には優れた検査ですが、その手間や所要時間から簡便な検査とは言えません。そこで肛門から50cmだけを観察するS状結腸カメラという検査法もあります。
 準備は直前に浣腸するだけでOK。検査時間は5分程度です。予約なしでも可能です。大腸ガンのうち80%は肛門から50cm以内に出来るといわれています。また大腸ガンの中で最も多い直腸ガンと痔の出血は、この検査ではっきり区別できます。簡単な割に診断的価値の高い検査です。

(3)X線検査
 正式名:注腸X線検査、注腸レントゲン検査
 肛門から腸にバリウムと空気を注入しレントゲンで観察する検査です。同日、補足的に腸の出口3分の1をS状結腸カメラで検査します。毎日午前中にします。
 前日、朝昼晩と特別食(レトルトのお粥、1800円)を食べます。夜、下剤を飲みます。当日朝、来院します。始めに内視鏡をします(約5分)。その約50分後にX線検査をします(約15分)。これで終了、帰って構いません。結果はその約2時間後に出揃います。

(最後に)
 検便で異常が出ているのに、自覚症状が無いからといって精密検査を受けない人が時々いますが、これは全く残念な事です。なぜなら上に書きましたように、検便は自分で分からない微量の出血をチェックしているのです。進行した大腸ガンの症状は本人にもはっきりわかる出血や便秘の悪化などですが、その時点では病変はすでに大きく育っており手遅れの事も少なくありません。しかしその前に発見治療すれば、このガンは完全に治せる場合が多いからです。