第4回 白血球、感染症、抗生剤


 1.白血球
 発熱や下痢などの症状の時、白血球検査というのをする事があります。白血球とは血液の中の細胞の一種で、細菌(バイ菌)が体の中で繁殖すると(細菌感染と呼びます、後述)増加して来ることが知られています。正常値は血液1立方ミリメーターあたり4000〜7000個ですが、細菌感染では1万個以上、場合によっては2万個を越える数になります。ところが似たような症状でもウィルスで病気が起こっている場合(ウィルス感染、後述)では白血球は正常かむしろ減少傾向になるのです。白血球の働きについては詳しくは解っていない事も多いのですが、要するに細菌が体内に侵入してきた時にこれを殺してしまうのです。だから細菌感染で増えて来るのです。
 白血球の測り方は簡単です。血液を一滴とって計算板というガラス箱に入れ顕微鏡で数を数えます。外来のクリニックで簡単に10分もかからずに測定出来ます。だから日常の診療でも頻繁に測定するのです。

 2.感染症
 ところで体内に微生物が侵入して熱や痛みなどを生じる事を感染症と言います。感染症の大部分は細菌感染とウィルス感染です。
 さて細菌とウィルスはどちらも肉眼では見えない小さな生物ですがその性質は全く違います。例えば細菌は植物の一種ですが、ウィルスは正確には生物ではなく、生物と物質の間に位置付けられます。大きさも人間とゴキブリくらい違います。だから細菌は普通の顕微鏡で見えますが、ウィルスは電子顕微鏡でないと見えません。
 細菌感染とウィルス感染は症状がよく似ているし、併発する事も多いのですが、微妙に所見が違います。例えば風邪はノドやハナのウィルス感染ですが、急性扁桃炎は細菌感染です。それで熱、ノドの痛みという症状は同じですが、急性扁桃炎の場合は熱がより高い場合が多くまたノドをよく観察すると扁桃腺にべっとりと膿が付いているのが多いのです。また普通の風邪に細菌感染を併発するとドロッとしたタンやハナ水がたくさん出ますし、熱の期間が長くなります。
 細菌感染があるかどうかは細菌がいるかどうか培養して確認するのが確実な方法ですがこれは結果が出るまでに約1週間かかり、実用的ではありません。でも他に便利な方法があります。それがはじめに書いた白血球検査です。白血球が正常ならウィルス感染、多ければ細菌感染と考えておおむね構わないのです。だから白血球を測るのです。

 細菌感染ウィルス感染
白血球増加正常〜減少
抗生剤有効無効

 3.抗生剤(抗生物質)
 抗生剤(抗生物質とも言う)は細菌を殺す薬です。上で述べた細菌感染症の特効薬です。抗生剤の発見によってそれまで致命的な病気であった肺炎やチフスは治る病気になりました。ノド、ハナの細菌感染症、腸の細菌感染症も早く治る様になりました。しかし、残念な事に抗生剤はウィルスに対しては何の効果も無いのです(何故なら今まで書いてきた様に細菌とウィルスは全く違う物だからです)。また抗生剤は細菌細胞に対する毒素ですから、人間の細胞に対しても影響する可能性があり、実際最も副作用の出やすい薬のひとつです。どんな場合でもそうですが必要の無い薬は使わないのが常識です。中でも抗生剤は特に注意を要する薬なのです。
 したがって抗生剤を使おうかという時は、症状をよく見極めたうえ出来るだけ白血球検査をして単なるウィルス感染ではないのか、本当に投薬が必要なのか慎重に判断する事が必要です。また、とりあえず抗生剤を使っても同時に細菌の培養検査もしておくのが望ましいのです。

 4.ウィルス感染の治療−例えば風邪の治療
 細菌感染に抗生剤が特効薬という事は分かりました。ではウィルス感染の治療はどうすれば良いのでしょう。残念ながら今のところウィルス感染に特効薬は無いのです。でも幸いな事に大部分のウィルス感染はおとなしくしていれば数日の内に治ってしまうのです。その代表が風邪とウィルス性腸炎です。こういう場合も薬は使いますがそれは治ってしまうまでの間、熱やセキ、下痢などで体力を消耗しないためです。つまり薬が効いて病気が治るのではなく、本人の抵抗力で治るのです。風邪をひいたらあれこれ薬をのむより家で寝とくのが一番というのはこの事なのです。
 簡単に治らないウィルス感染ももちろんあります。その代表がエイズと慢性ウィルス性肝炎です。これは現代医学の最難関のひとつです。その事はまた今度機会をみつけて書きたいと思います。