第7回 人間ドック(健診)の利用法


 どうも体調が思わしくないのでドックに入って検査してもらおうかという方が時々おられます。でもこれは医者から言わせてもらうと適切ではありません。なぜなら今から書きます様にドックは本格的な検査とは全然違って健康管理の出発点に過ぎないのですから。
 健康への関心が高まって来た結果、人間ドックや健康診断が普及してきたのは大変よい事だと思います。しかし、これらはその長所と弱点をよくわきまえて上手に利用しないと重要な病気を見逃したり、ささいな異常値に振り回されたりします。

1.人間ドックとは:ドックとは本来船の修理台です。船の定期整備の事をドック入りと言います。自動車で言えば車検です。人間を船に例えて無症状でも一通り全身を検査してみる、これが人間ドックです。
 その目的は成人病の早期発見です。成人病とは高血圧、糖尿病、悪性腫瘍などではじめは症状がないが症状が出てからでは手遅れや治療困難になりやすい病気です。ですから定期的にドックを受けるという事は健康管理にはとても良い事です。
 しかしここで注意が必要なのはドックは広く全身を調査しますが、どの検査もあっさりと調べるだけで本格的な検査とは違う事です。まためずらしい病気については検査しないのが原則です。
 例えば当院の人間ドックでは、胃透視(バリウム検査)はフィルム8枚で検査します。しかし健康保険で(つまり症状があって)検査する場合は最低11枚、必要に応じてそれ以上のフィルムを使います。これはどこの病医院でも同じ事です。無症状の人全員に広範囲に濃厚な検査をしていては、手間も経費も莫大な無駄遣いになってしまうからです。
 そしてドックで異常が見つかった場合、次にすべきは本物の精密検査です。例えば胸のレントゲンで異常が見つかった場合、断層撮影、胸部CT、痰の細菌培養、細胞診断、気管支鏡検査などが考えられます。もしもう一回人間ドックを受けても振り出しに戻るだけで何の問題解決にもなりません。それどころか下手をすると微妙な病変の場合、1回目は異常を指摘出来ても2回目では見逃される可能性もあるのです。

 そこではじめに書いた事が分かってもらえると思います。何か気になる症状があるのならそのことを医者に相談して適切な検査計画をたててもらってそれに従って検査を進めて行くのが理にかなっているのです。

 自動車に例えれば簡単に分る事です。運転中にブレーキの調子がひどく悪いと気付いたら車検まで待たないで見てもらうでしょう。もしたまたまちょうど車検に出す時期だったら、特に念を入れて見てもらう様に頼むでしょう。そしてもし車検で『異常なし』と言われてもそれですっかり安心できる人は少ないと思います。まず自分で運転してみて確認します。そしてやっぱりおかしいなと思ったらしつこいと思われても、もう一回チェックしてもらうでしょう。自分の体も同じ事なのです。

 健康診断も基本的にドックと同じです。一般にドックに比べて検査の項目が少なくなりますが広く浅くが原則です。だから毎年会社で健康診断を受けているから大丈夫と思っていると、時々とんでもない落し穴があるのです。

2.人間ドックは健康管理の出発点にすぎないと私は思います。具体的にドック(検診)受診に当たっての注意点を以下に書きます。

@気になっている症状がある時は必ず医師にその事を問診票だけでなく口頭で伝える。
A要治療の場合はもちろん、要精密検査や要経過観察の指示が出た場合は必ずそれに従う。
B検査で異常なしでも症状が続く時は必ず医者に相談する。
C結果はかかりつけの医者がいる場合は必ず見せておく。

ひと口知識:GOT、GPT
 いずれも正常の肝臓細胞中に含まれる酵素です。その働きはアミノ酸の体内での利用に関係しています。肝臓に炎症があり肝臓細胞が破壊されると血液の中に漏れてくるので血中濃度が高くなります(逸脱酵素と言います)。正常値はGTO<40、GPT<35です。GOTは肝臓だけでなく筋肉などの細胞にも含まれますので、肝臓病以外でも増加します。GPTは肝臓だけです。そして肝臓病の場合GOT、GPTのどちらが高いかで意味が違いますから、ふつうセットで測定します。また他の酵素も同時に測定します。
 肝臓に炎症があることを肝障害と言います。慢性肝障害は大雑把にいって2通りあります。1つはB型やC型ウィルスによる肝炎、もう1つは酒の飲み過ぎ、太りすぎ、栄養のバランス不良による肝障害です。この2つは治療法が根本的に違いますので、GOTやGPTが間違いなく高いと分かったら次にするのはウィルス肝炎の検査です。