第8回 血液検査の見方


 血液検査には色々の情報があります。しかし限界もあります。今回は当クリニックで『セット1』と呼んでいる検査を例にとって血液検査の見方を説明します。

 『セット1』は内臓の状態を大雑把に全体的に評価する基本的な検査組合せで、人間ドックで行なう血液検査と同等です。

 まず伝票の左3分の1には検査項目とそれぞれの正常値が印刷してあります。Mは男の、Fは女の正常値です。中央3分の1にあなたの成績が印刷してあります。
 そして伝票の右3分の1に星印が印刷されています。その一番上に減少、正常、増加と書かれています。星が正常の位置にあれば問題なし、それから外れた場合は要注意です。

 この検査で何が分かるのか
 それではこの検査によって何が分かるのでしょうか。次に順を追って説明したいと思います。

1.総蛋白、蛋白分画:病気になると血液中の蛋白質の量が変化したり、異常蛋白が出現したりします。その点をチェックしています。(簡易法としてアルブミンA/G比を調べる場合もあります)
2.総ビリルビン:黄疸の色素です。肝臓、胆嚢の病気で増加します。増加すれば黄疸です。しかしこの値は個人差が大きく、正常を外れたから即病気とは断定出来ません。
3.尿素窒素、クレアチニン:腎臓の働きを表します。これらは腎臓から尿に排泄される物質です。ですから腎臓の働きが弱るとこれらの血液中の濃度が増加します。尿素窒素については個人差が強いです。
4.尿酸:痛風の検査です。尿酸の血液濃度が増加すると関節にこれが沈着して痛風を起こします。また内臓障害を起こすこともあります。
5.Na、K、CI、血清鉄:電解質の検査です。これらは個人差があります。
6.総コレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪:脂肪の検査です。総コレステロール、中性脂肪は増加すると動脈硬化の原因になります。HDLコレステロールいわゆる善玉コレステロールで、減少すると問題です。
7.GOT,GPT,ALP,LDH,γ−GTP、コリンエステラーゼ:肝臓と胆嚢、胆管の検査です。これらは肝臓、胆嚢などの細胞に含まれている酵素です。これらの臓器が炎症を起こすと細胞が破壊され血液中に漏れて来ます(けんこうニュース第7回参照)。これらに異常があるときは超音波で肝臓、胆嚢を観察したり、肝炎ウィルスがいないかという血液検査をします。
8.アミラーゼ:膵臓の検査です。厳密にはアミラーゼは唾液腺にも含まれていますので、増加している時は精密検査が必要です。
9.グルコース:ブドウ糖ともいいます。糖尿病の検査です。正常値は110以下になっていますが、これは空腹時の正常値です。食後2〜3時間では140までは正常です。
10.CRP、白血球:炎症の指標です。CRPは体内に炎症があると肝臓で生成される蛋白質の一種です。白血球は細菌が体内に侵入して来たときにこれを殺す細胞で、この増加しているということは体内に細菌感染を疑う根拠になります。
11.赤血球、ヘモグロビン(Hb)、ヘマトクリット(Ht)、MCV、MCH、MCHC:貧血の検査です。血が薄くないかを調べます。
12.血小板:出血を止める細胞です。少ないと血が止まりにくくなります。
13.白血球分類:白血球の中には色々の種類があります。それぞれがどういう割合になっているかの検査です。パーセントですから合計すると100です。この割合は個人差が非常に大きいので判定は医者にまかせて下さい。

 以上の検査で異常があれば、必要に応じて次の段階の精密検査をします。

 この検査では分からない病気
 最後に『セット1』では分からない病気の検査法について書きます。
1.肺、気管支:胸部のレントゲン、痰の検査が必要。
2.胃、腸:レントゲン(バリウム)検査、内視鏡検査が重要。
3.心臓:心電図と胸のレントゲン、心臓エコー。
4.脳脊髄神経系:CT、MRIが有力。
5.甲状腺等のホルモン検査:血液検査ですが、めったにある病気ではないのでそれらしい症状があって必要と判断した時のみ検査します。

 血液検査ですべての病気が分かると思っている人が時々おられますがそれは間違いです。検査にはすべて限界があります。そのことは頭に入れて結果を理解していただきたいと思います。