第9回 風邪薬の知識


 風邪は薬では治りません
 風邪はウィルスという病原体がノドやハナに繁殖して起こります。扁桃腺炎や肺炎は症状が似ていますが原因は細菌(バイ菌)なのです。いわゆる風邪はこれとは全く違ってウィルスが原因です。細菌とウィルスがどのくらい違うかという事は以前書いた事があるので(けんこうニュース第4回)省略しますが、要するに風邪を治してしまう薬は無い、風邪が治るのは本人の抵抗力(体内)次第だという事です。
 それでは一体何のために風邪薬はあるのでしょうか。それは症状を除くのが目的なのです。例えば喉や頭の痛みは病気が治らなくてもとりあえず取り除いて欲しいものです。また熱が続いていたり、咳が止まらないでいると体力を益々消耗して自然の治癒力も弱まってしまいます。だから症状を抑える。大部分の風邪薬はそういう目的で使用されます。
 以下、当院でよく使う風邪薬の効果と使用上の注意を列挙します。
(1)解熱鎮痛剤:炎症をおさえて熱と痛みをやわらげます。市販されているバファリン、セデスの類です。副作用は胃にこたえることです(腹痛には効かない)。だからすきっ腹で飲むのは止めたほうが良い、もし空腹で飲むなら胃薬と一緒に飲むのが無難です。繰り返しますがこの薬は風邪を治す薬ではありませんから、熱も痛みも無くなったらさっさと減らして止めてしまうのが賢明です。
(2)抗ヒスタミン剤:鼻の調子を整えます。副作用は眠気です。この薬に鼻詰まりをとる成分を配合した薬があります。これは効果が確実ですが眠気がより強く、口が乾きます。
(3)咳き止め:咳は喉や気管の異物を生体が追い出そうとする反射です。風邪の時は喉や気管にタンなどが出て来ます。普通の咳き止めはこの反射をブロックして働きます。副作用は便秘です。また去痰剤といってタンの粘りをとって咳を抑える薬もあります。これらの薬も咳が軽くなってきたら、さっさと減らして止めてしまうのが良いのです。
(4)総合風邪薬:解熱鎮痛剤と抗ヒスタミン剤を一緒にした薬です。ひとつの薬で両方の働きがありますので、色々症状がある時に便利です。
(5)トローチ:喉の痛みに使います。甘いトローチは殺菌力がありますが、胃にこたえます。甘くないトローチは喉の腫れをとる作用があり、胃にやさしいのが特徴です。
(6)うがい薬:トローチと同様またはより強い効果が期待できますが、携帯に不自由です。うがいは何の副作用もありませんから風邪が治ってもしばらくは続ける方が良いのです。
(7)抗生物質:バイ菌を殺す薬です。はじめに書きました様に風邪はノド、ハナのウィルス感染ですから抗生物質は効きません(けんこうニュース第4回参照)。でも風邪がこじれてくるとそこにバイ菌が繁殖してきます。そのときはハナ水やタンが濁って量が多くなります。こういう時は抗生物質を使わないと肺炎や中耳炎になってしまいます。抗生物質は2〜3回飲んで効く薬ではありません。使うときは少なくとも3〜4日間きちんと使う必要があります。
(8)注射:解熱鎮痛剤、抗ヒスタミン剤、抗生物質、栄養剤などを必要に応じて注射します。注射の特徴は薬が胃腸を通らないので胃にこたえず早く効くことです。その代わり早く効果が切れてしまいます。効くといっても何度も書いて来た様に薬が効いて風邪が治るのでは無いのです。ですから注射をしたら早く風邪が治るというのは迷信です。
(9)漢方薬:漢方薬には風邪を治してしまう力があるのではないかという人もいますが、それは分かりません。しかし漢方薬の風邪薬は体力に合わせてタイミング良く使えば西洋薬よりずっと効果が期待できます。
@葛根湯(かっこんとう):比較的体力のある人の風邪の初期に使います。また喉の痛みが強い場合は桔梗石膏(ききょうせっこう)という薬を併用します。体力の弱い人には桂枝湯(けいしとう)という薬が使われます。
A小柴胡湯(しょうさいことう):風邪が長引いて微熱が続いたりみぞおちの部分がつかえた感じがする時などに使います。桂枝湯と一緒に使われる事もあります。
B麦門冬湯(ばくもんどうとう):漢方薬に独特の咳き止めです。その働きはノドや気管の粘膜の刺激を取って咳を鎮める事です。これは西洋薬には無い種類の薬です。その他に麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう:西洋薬の咳き止めに近い)や小青竜湯(しょうせいりゅうとう:アレルギー性鼻炎にも使う)などがあります。咳の様子によって使い分けます。