そこはかとない男女の会話U

口説き酒

「シャンパン飲む?」
「・・・・えぇ、・・はい!」
「ためらったね。嫌いなの?」
「でも・・・・・・」
「ん? あ!そうか、大丈夫、ここはフランと違うから」
バーテン 「シャンパンは口説き酒といいますからね」
「フランスではね。・・・・シャンパンは発泡性のぶどう酒の一種、発泡性のぶどう酒は通常"パンムス"と呼ばれるが、シャンパニス地方で産したぶどうを使ったものだけが"シャンパン"と言いそれ以外は言わない。いわば特別の希少価値があるものだ。
 男が女に"シャンパン飲む?"と言えば特別な関係になりたいう誘いであり、うなずいたら、一晩付き合ってもいいと意思表示をしたことになる。しかし、女性には選ぶ権利がある。シャンパンはいかが?と問われて"私はあまり好きじゃないの""今日は他のお酒にして"とか"この次いただきます"とか微妙な会話が出来る。
 日本で一時流行った口説き文句、"夜明けのコーヒーを飲まない?"よりしゃれているね。もっとも、コーヒーの前は"朝ご飯一緒に食べない"だったが、これには笑い話があってね、ある中年男が若い女性を口説いたら"私、朝は弱いの。お昼にフランス料理を御馳走して"と返され、げんなりしたという話。意味が通じていないんだ」
"ぬるいわ、あなたのシャンパンは!"
「? ああ!"ルシアンの青春か"フランス映画、ルイ.マル監督対独占領下のフランスでの暗い青春を無情に描いた傑作だったな。
 ドイツ警察に協力し、手先になった主人公"リュシアン"(17歳、ピエール.ブレ−ズ)が、ある日出会った美しいユダヤ娘"フランス"(オーロール.クレマン)に心を寄せ、ドイツ警察のコネで手に入れたシャンパンを持ってきて、彼女に迫るシーンだな。
 リュ"シャンパンは好きですか
 フ "いいえ、今夜は嫌い"
 リュ"さあ、きみに乾杯"
 フ "ぬるいわ、貴方のシャンパンは。それに悪い年のよ"
 この会話が意味深長だ。あからさまに拒否をしているのではない。何しろ相手は、手先とはいえドイツ警察がバックにいる。むしろ、女の恋の駆け引きが仄見える。
 え!何!?、今、きみはどうしてそんなことを言うんだ?冷たいのなら飲むの?」
バーテン 「ハイ、"ポメリー"です。冷えてます」
「おいおい、えらく高級だな!」
バーテン 「店のおごりです。お祝いですよ。私にも子供が出来ましてね」
「おめでとうございます。どちらですか?」
バーテン 「女の子です。欲しかったんですよ、嬉しくってね」
「おめでとう。女の子はかわいいからね。それにこれからは女性の時代だからな。今夜は、いいとき来たな。この甘口の"ポメリー"は貴族の酒だ。フランスでは一流のレストランやホテルなどで上流社会の女性とデートするとき飲まれる」
バーテン "クリュッグ"や"マム"一番甘い"アラヤ"などもいいですがね、それほど肩ひじ張らない場合は"ロドレール"や"ペリエ・ジューエ"辛口・ドライなら、"ブリット"などありますが、しかし今夜は"ポメリ−"を飲んでください。決して"ぬるく"はありませんよ」
「あれ?君、シャンパン、お代わりしたね!いいのか?」
「・・・・・・・・・・」


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