カウンター8席、江戸前料理の小粋な店、某企業の経営者、友人の生物学者
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「いらっしゃい、今日はシンコ(新子)"入っています」 |
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「シンコの酢じめ、それと、カワハギの肝をもらおうか」 |
| 生 |
「シンコか!もう秋やな、これが"コハダ""コノシロ"と成長する頃は早春」 |
| 板 |
「"シンコ"はさっぱりしておいしい、けど、時期が短いので口にすることが少ない。コハダに成長すると少しアブラポックなりクセがある。それがいいと言う人もいますが、やはりシンコが一番でしょうね。九月になると"シンコの早鮨"と言って江戸っ子は先を争って食べました」 |
| 経 |
「"酢じめ"好きの女は多産系だそうだ。だいたい、酸いものを好むむきは一発必中型、夏みかん、梅干、コハダでテストすれば良い。」 |
| 生 |
「何の話や、お前の自戒か?気つけや、ところで、カワハギの肝は初めてやな」 |
| 板 |
「あらゆる魚の肝の中で一番味のいいのが、"カワハギの肝"でしょうね。今日は湯通ししたのを、おろし大根、三杯酢で食べていただきます」 |
| 経 |
「酒は多摩の清冽な水で仕込んだ寒造りの辛口吟醸酒、お前も久し振りの上京だ。ゆっくりやろうや」 |
人間は"人材"にあらず"人財"
| 生 |
「会社どないや?どこもかしこもリストラいうて大変やな」 |
| 経 |
「"グローバルスタンダード"これは和製英語、実際は"デファクトスタンダード"(既定の事実になってしまった基準)と言うのだが、世界に通用する 経済システムを作り、経営をやらないと競争していけないからな」 |
| 生 |
「つい最近まで、日本的経営が持てはやされていたんと違うんか」 |
| 経 |
「日本の経済が強くなりすぎた。それは保護規制があったからだ、取り払わないと世界市場から締め出される。一種の日本パッシングだな。それといい気になって経済をバブル化し破綻、日本的経営は何もかもダメだとなってしまった。とにかく世界が納得するように、規制を撤廃し、それに適応した経営体質にしないとな」 |
| 生 |
「"リストラ"いうたら本当は、"経営環境の変化に応じて事業を根本的に再構築する"ことと違うのか?それが人員削減、首切りの代名詞みたいに使われている。首切られる方はたまらんな。なんやかんや言うけど、しょせん経営の見通しとやり方が悪かったんと違うんか?人は単に"材料"と違で、"人材"なんていうから、いらんようになったら平気で捨てよる。ちゃうで、人は"財産"や"人財"や、だから"財産"を増やすんや。 人間はコスとやなくって資源やで、社員の首切って利益出して経営は立ち直りましたいうて得々としている経営者は知恵なしや。単に縮小均衡しているだけやないか。経営者は仕事を創り、社員に与える責任と義務があるんと違うんか」 |
| 経 |
「確かにお前の言うとおりだ。しかし高度成長期に"人罪"が多くなりすぎたのも事実、これらは"ピスケットイーター"だ。 アメリカの愛犬物語と言う映画に、猟犬のクセにちっとも獲物をくわえてこない犬が出てくるが、それでいて、この犬はご褒美にくれるはずの"ピスケット"ばかり食べていた。転じて、月給だけはいただくが、ちっとも働かないサラリーマンのことを意味する。リストラせざるを得ないよ」 |
| 板 |
「はい、"戻り鰹"の刺身」 |
| 生 |
「"餅鰹"とも言う。鰹は回遊魚、南のほうへ回遊する。秋、岩城の三陸沖で獲られる鰹は脂が乗っていて味は最高や、初夏の初鰹は季節感で食べるが、秋は味勝負や、こら美味しそうや。ところでお前、"蟻が怠けもん"と言うこと知っているか?」 |
蟻は怠け者
| 経 |
「?・・蟻は働き者の見本だろ?」 |
| 生 |
「ちゃう、群れのうち働いとんのが20%、後の80%はブラブラして遊んどるんや、どちらか言うと怠けもんの昆虫やな。 蟻を働きもんにしたんは、ギリシャの寓話作家"アイソポス(イソップ)"や、"蟻とキリギリス"いう話でな。爾来、"蟻は働きもん"が定着、学ぶべき昆虫として教科書にのり、夏休みの宿題で観察対象NO1や。蟻にとっては迷惑な話や、観察されとったらサボるわけいかんわな。キリギリスの方がましや言うて,イソップ恨んどるで。これは冗談。そこである生物学者が実験してみた。 "80%のぶらぶら蟻を取り除いたらどうなるか?"いわゆる働き蟻20%だけの少数精鋭化やな、なんと少数精鋭化したはずの蟻の80%が怠け出した。もっと驚いたのは、逆に、取り除いた怠け蟻の中から20%が働き出したんや。 こらどういうこちゃ?いろいろ議論がされ,結果、集団組織では誰かが働いていると、安心して怠ける奴が出てくる。逆にみんなが怠けていると、危機意識に目覚めた奴が出てきて働き出す。 人間も生物やからな、似たようなもんや。これでいくと、リストラいうて少数精鋭化しょうとしても必ず怠け者が出てくるというこっちゃな。そいつを排除しても同じことの繰り返しや。その結果、組織がどんどん縮小して活力がなくなる。反面、排除された怠けもんは意識の持たせようによっては精鋭化するはずや。 その手間,工夫をやらんで手っ取り早くリストラに頼るちゅうのは知恵無しで怠慢と言われてもしょうないな。 それに最近の研究では、怠け蟻はただ怠けてるんと違う。ぶらぶらしながらいろいろな情報を収集していることが解ってきた。"あそこにはええ餌があるで""あそこは近寄るな危ないで""あの通り道は安全で早いで"など、それに巣が危機的状況になった時、例えば敵に襲われたり、雨などの災害に見舞われたとき、活躍するのは彼らやと言う。彼らはいわば"待機型無駄"という存在やな」 |
| 経 |
「待機型?」 |
| 生 |
「例えば、ジェット機のエンジンは4発ある。そのうちの一発はいざと言う時にだけ動く。普段は3発で飛んでいる。33%の待機型の無駄やな、車のスぺ−スタイヤもそうや、1輪だけしかないが25%の待機型無駄、勿論、経営ではこれを最小限にする努力は必要やが、まったく無くしてしまうというわけにいかんやろ。近頃は危険が多いから何が起こるかわからんさかいな。"クライシスマネジメント"と言うことからも必要やで」 |
"リスク"から"クライシス"マネジメント
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「お前の言うとおり、いまは"リスク"から"クライシス"マネジメントの時代だ。 "リスク"の時代はリスクを計算し、損得を判断すれば良かったが"クライシス"は人の生死や,国家や企業など人間集団の生きるか死ぬか、存亡の問題だ。単に合理化や効率化では済まされない、むしろ費用をかけてでも対応する手段を用意しておかなければならないことぐらい解っているよ。ただ"クライシス"をどの程度見積もるかに苦慮するよ。 また、経営組織も蟻と一緒で、"20,60,20の原則"と言うのがあって。全体の社員の中で、働いているのが20%、どうにもならない怠けものが20%、その間の60%はその時の経営情勢や雰囲気で働いたり,怠けたりどっちもつかずで主体性がない社員。今どの企業も、怠け者の20%を温存しておく余裕はないよ。だからリストラし,60%に積極的に働く意欲を喚起させるかが人事政策のポイントだ」 |
| 板 |
「里芋のふくめ煮です。長ネギと煮含めています。これユズ皮の刻みです」 |
| 生 |
「里芋は不思議とネギにあうな。甘みが出て,味がひきたつ。秋の味覚やな」 |
| 経 |
「汁気たっぷりの"ふくめに煮型"がいいのか、煮つめて、からっと色よく仕上げた"うま煮型"か、さて、色の道、どっちがいいのかな?」 |
| 生 |
「お前がいうとなんか嫌らしいな。"無用の用"と言う言葉知っているか」 |
| 経 |
「?」 |
無用の用
| 生 |
「漢籍の"荘子"に出てくる。"用なきを知って而して始めて共に用を言うべし"一見,何の役にも立たたんように見えるものが,かえって大切な役割を果たしているという意味やが。
ある人が"大地に立っている人間にとって、用があるのは自分の足が立っている部分だけだ。それ以外の地面は無用だ。全部掘ってしまえ!"というて掘ったら、目が眩んで立っておられんようになった、という故事による。
役に立たんいう者が、案外役に立つものを支えとる。それにな,人間ちゅもんは"自分はこの人に必要とされている"と思うと働くもんや。組織は精神的かつ有機的なもんや、多様な個人がいて、その差異が混ざり合って活力と付加価値を創造する。人間的ふれあいが高付加価値商品を作るんや。
常に生き残る企業には合理性以外になにかがある。それは数字や,データでは捉えられない精神的なもんや。
"ヒトデ"知っとるやろ。5本の手(触手)を持っとる。これ海中にいる時は一本一本勝手に動いとる。仮に一本の力が100%として500%の力で動いとる勘定や。ところが異常や緊急事態が起こるとヒトデ全体で600%の力を発揮して対応する。
何故か?調べると、普段、一本一本の手は80%の力で動いていて20%は本体部分に預けていることが解った。つまり何にもない時は80%の力で思い思いに勝手に動いとるわけや。ところが事が起きると全体が有機的に動き出す。すると一本80%の力が100%に増大し、5本で500%の力になる。さらに、預けられた20%が有機的に連携して100%の力を発揮し出す。ヒトデ全体で600%の力になる。もしヒトデが指10本持っていたらもっと力を発揮することやろ。会社組織も同じとちゃうか?人を切りすぎると組織は衰える。
造船業界がそうらしいな。一頃は不況下でも安定しとった。ところが 今、不況が深刻化しとるらしい。
ある雑誌の論文に、その原因は"需要不振というより,技術力、生産能力が劣っていて、国際競争で軒並み敗退している所為"と書いとった。日本の造船業はかっては世界一を誇っていた。それがこのざまや。 そのわけは"80年代初に見舞われた大不況"を人員削減と言う大リストラで乗り切ったが、その後も、設備投資の抑制や、コスと削減ばかり強調、優秀な人手の確保や技術力向上を怠けていた。目先のことばかり考え、先見性がない。経営無策のつけが今、きている"それやったら、いわれてもしょうないな。 |
不安を与えるものは悪人
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今、社会も会社も"不安゛だらけや。何時首切られるかわからん状態ではおちおち仕事もしておれんわな。不安は不満とは違う、不満からは現状改革しようと言うエネルギーは生まれるが、不安からは決してエネルギーは生まれへん。
ヤル気の萎縮、創造力は枯渇する一方や。おれはな、"人を勇気付けるものは善""人から元気を奪うものは悪""人として誇りを高めさせるものは善""人の誇りを傷つけるものは悪"やとおもうとる。さしずめ、リストラ経営者のほとんどは悪人やな」 |
| 経 |
「きついこというなあ!仰せごもっともなれど、時間的ゆとりがない。会社を倒産させるわけにいかない。人件費が生産性に見合っていない。高すぎる。リストラせざるを得ない」 |
| 生 |
「人件費下げたらええがな。従業員も首切られるよりましや。
俺の知ってる中小企業の経営者は従業員に会社の実情を話して、首切らん代わりに、給料半分にしてくれと持ちかけた。
実際は時間外カットや賞与カットが大部分やが、ユニークなんは、カットした分の半分を業種転換するために新規事業投資にまわす。その事業の株を給料カット分に応じて従業員に持ってもらう。5年後には給料を元に戻すなど、新規事業の詳細な計画を説明した。
企業30年説が流行ったことがあったな。どんな事業でも30年経てば衰退する。そやからその間に、次の新規事業を立ち上げておかんといかん。その種を仕込み立ち上げるのが社長の仕事や、社長は少なくとも10年先のこと考えるのが仕事や。
この中小企業の社長は、今の仕事はこれ以上発展性がないと見極め、これに変わる有望な新しい仕事を絶えず考えていたんやな。 従業員は乗ったがな。このままで行けばジリ貧,倒産や、必死になった。 新規事業のため採用された社員と力を合わせ、技術ノウハウを勉強、取得し今では、技術力は業界随一やという。 現在、収益は上がり給料は元以上になっている。なによりも従業員が株主として自分も経営に携わっているんやと言う自覚が大きい。さらにこの企業は次の新規事業を推進しているらしい。 変化の激しい時代や、儲かとってもすぐ陳腐化しょる。そやから迅速に、小回りの効くよう分社化し、グループ経営をしとる。従業員の首を切るどころか、人手不足やと言う」 |
| 板 |
「ハゼのテンプラです」 |
| 経 |
「秋ハゼは未だ脂肪が乏しいから、テンプラが最高。彼岸の中日に釣ったハゼを食べると中気(脳出血)にならないと昔から言われている。もう少しあぶらが乗ると生醤油と酒でからめ、さっと煮つけても美味い」 |
| 生 |
「ハゼは世界中で約6百種と多い。日本だけでも20種類いる」 |
| 板 |
「江戸前のハゼは"マハゼ゛です。川の水と海の水が混じりあった河口近くに群れています」 |
"理想論"は"空論"でない
| 経 |
「学者はいい、いまどき経営者なんかなるもんじゃないな!」 |
| 生 |
「何や、強気のお前らしゅうない。いつも"学者先生"いうてばかにしとったやないか。
それに、"現実と理想は違う。現実を直視しろ""現実ばなれした抽象論を言うな"が口癖や。
しかし、理想や理論を持たんで、本当に現実を直視できるんか?現実を測る尺度はなんや?評価する基準は何や?理想と現実との差を近づける対応策が立てられるんか?理想を持たんために倒産した企業はあるが,理想を持つたために倒産した企業ないんと違うか?」 |
| 経 |
「勿論そうだが、理論に実現可能性がどれだけあるかが問題だ。なければ空論だよ。またそれを推進し実現して行くには権力が必要だ。それができないのなら、いかに立派な理論でもそれこそ学者が唱える提言に過ぎない」 |
| 板 |
「後は、秋なすの一口漬にまだハス飯があります」 |
| 経、生 |
「いいね!」 |
| 板 |
「ハス飯は茶の湯、懐石で有名です。もともとは仏教の盂蘭盆の料理が普及したものです。ハスの若葉をよく洗って刻み,塩をふっておいておき、ウルチ米にモチ米を八対一の割合で加え、昆布だし,酒を加え、塩味にし、蒸らし終わったら、先のハスの葉をふりこんで十分おくと出来あがりです」 |
権力は麻薬
| 生 |
「うまそうやな。ところで、"ランナーズハイ"って知ってるやろ?マラソンみたいな激しい運動を続けているうちに、苦しみが快感や恍惚感に変わる。これは脳内にヘロイン系の麻薬と一部構造が似た"ドルフィン"という物質があって、普段は細胞の中に閉じ込めらとるんやが、ある種の信号がくると外に出て麻薬を体内に入れたと同じような感覚にする。
その信号に当たるのがマラソンや登山のように長時間にわたる激しい運動や。それと同じく"パワーズハイ"もあるはずや。」 |
| 経 |
「パワーズハイ?」 |
| 生 |
「パワーズは権力、権力も麻薬やな。それも歳をとるほど強くなる。体力,気力が衰えてくるとそれを補うために権力たらいう麻薬の力を欲しがる。いいかえれば死の恐怖を紛らすためでもある。
それに権力は人間性を変質させる。最近、とてつもない赤字と借金を抱えている企業の老社長がいうてたな。"私しか赤字や借金は解消できない"80歳なのに居座ろうとしている。人が"私しかいない"と思い出したら、権力の麻薬で脳がいかれてきた証拠や。
お前も経営者は大変やといいながら社長続けとるやないか。まさか未だ"自分しかいない"と思っとらんやろが、そう思い出したら辞めるこっちゃな。組織は個人の力で動いとるわけやない。お前が居らんようになってもチャンと動くもんや。
それに権力がなくなった時が恐ろしい。禁断症状で身も心もボロボロになる。すぐボケ症状が始まり、死ぬのも早い。この症状は権力の麻薬の強さと使っていた時間の長さに比例する。ある医者が言うとったな
"大脳機能が衰えを見せ始めた時の思考の混乱と低迷はいかなる天才といえども免れがたい。天才の頭脳といえども合成物質に特殊な帰趨である元素還元にはこうしがたい" つまり人間の脳は合成物質で出来ており、歳をとるにつれ、もとの構成元素に分解して衰えて行く。どんな人間かて同じや、宿命やな! |
ゴリラのボス方が人間よりまし
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話は変わるけどな、最近ゴリラの研究しとるんや。 群れのボスはたいしたもんやで。彼らのボスたる資格は、 第一に群れの安全と生活を守ること、外敵に向かって攻撃し決して怯まない。 第二に内部の取締りと監督、サルの社会ではいざこざがしょっちゅう起こる。取り締まり,監督はじつに公平で的確や、だから群れの信頼をかちとる。 第三は小猿など弱いものに対する保護、餌なども出来るだけ先に採らせるようにする。 第四に群れに対し目的地を指示し出発を命じる。群れの安全と生命はボスの判断に委ねられている。群れに方向性を与え、全員が共通の目標に向かって行動するように指揮をとるんや。 第五にこれが一番大事やが、ボスとしてやるべきことが出来なくなった時、その地位にしがみつくことなく、潔く群れを去る。どうや?人間より偉いんとちゃうか?」 |
| 経 |
「なんか今夜は、江戸前料理を御馳走して説教されてるみたいだな」 |
| 生 |
「いやいやお前のことやない。一般論や。お前はたいしたもんや。この不況期に増収増益で |