『酒の後の茶漬けは鰻茶にかぎる』

A 「酒の後、なんとなくしつこいものが食べたくなる。といって、ギトギトも嫌だ。鰻茶はいい。醤油のたれを甘くしないで、直焼きの鰻、佃煮状にしたものがいい。熱い炊きたてのご飯の上に乗せる。魚の茶漬には熱いご飯,冷だと生臭くなる。熱々の濃い目の煎茶を注ぐ,煎茶じゃないと駄目だ。しばらく蓋をして蒸す。鰻のしつこさと茶漬のあっさりし味覚が絶妙に調和されて実に美味い」

B 「落語の"居残り佐平次"の世界だな」

A 「六代目三遊亭円生の十八番、遊興費の肩代わりに品川の遊郭に居残りさせられた佐平次が図々しく若衆に鰻茶を注文するシーン、"夕べからいただいている酒がすこーし甘くてね、なんだか口になじんでうまくねんだ。ちょいと、ぴりっと辛口をつけてもらいたい。それから食い物は何にしようかな。そうだ、みんなでおまんま食おうじやないか。あったかいおまんまに、うなぎのっけの、お茶かけの、うな茶なんかどうだい"いかにも美味そうなんだ」

B 「"居残り佐平次"は映画"幕末太陽伝"のネタだったな」

A 「昭和三十二年、日活作品、45歳で夭折した鬼才川島雄三監督の最高傑作、古典落語"品川心中,居残り佐平次、芝浜"などをネタにして、フランキー堺、石原裕次郎、小沢昭一、左幸子など出演、コメディタッチの底に川島独特のニヒリズムが潜んでいて面白かった。
 さあ、熱々の鰻茶がきた。食べよう。」 


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