上州銅街道48キロ
平成4年11月 見野 容
<3万キロ突破記念に>
11月8日6時41分発、わたらせ渓谷鉄道で終点の間藤に向かう。
そこから桐生までの40数キロを走って下ろうというわけである。
ランニングを始めて9年目、さる10月28日、通算走行距離3万キロを達成した。
それはランニング通勤の途上であり特に感激することもなかったので、改めて3万キロ達成記念として思い出に残るランニングをしたいと機会を窺っていた。
2万キロの時は、海外研修のスケジュールに合わせて、カナダのバンフで達成した。研修仲間から、シャンペンで祝福を受け、レストランの店長に『上記の者が2万キロを突破したことを証明する』と書いてサインしてもらったりで『東西南北駆けある記』に思いでのページを加えることができた。
6日から3日間「ネットワーキングフォーラム
'92in桐生」が開催されたので、情報センターの多忙な時期ではあったが、我が儘を通して、参加させてもらった。
記念行事として2通りの計画を立てていたが、天候のことや交通期間のことがあって現地でいろいろ尋ねた上で決定しようと考えていた。
1つは、赤城山に登り、そこから桐生に下る約30数キロのコース。
もう1つは、わたらせ渓谷鉄道で足尾か終点の間藤まで登って,そこから桐生までの約40数キロのコース。
初日の懇親会で、事務局の上岡氏と桐生市議会議員の西牧氏にランニングの件を話したら、わたらせ渓谷の方をすすめられた。
途中の神戸(問題1.何と読むでしょう)には富弘美術館があり、水沼駅には温泉があるという。山口100萩往還マラニック250キロの部を思い出し(途中の文化センターで風呂をもらった)、ランニングの最中に温泉に入れるということが、えらく気に入ってこのコースに決めた。
距離は長いが何とかなるだろう。草臥れたら鉄道に乗ればいいのだから。
2日目、上岡氏は、わたらせ川と国道122号に色をつけた地図のコピーを持ってきてくれた。
2日目は、午前中分科会、午後はオプションで、大川美術館と岩宿遺跡の視察があった。そのあと希望者を募って桐生市内の繁華街でパーティーが催され、昨夜上岡氏に誘われて3000円のパーティー券を買っていた。
パーティーには、100人近くが集まって大いに盛り上がった。我等60才台は僅かに3人のようであった。20才、30才台が主流だったが若い女性も多かった。
ストレートのオンザロックを「大丈夫ですか?」と若い人達が心配してくれる。
「大丈夫ですよ、何時ものことだから」
上岡氏が紹介してくれた、毎日新聞の倉島氏にマラソンについて一席ぶったりしてすっかりいい機嫌になってしまった。
9時のニュースを聞きながら、ホテルのベッドでダウン。
<もみじ狩り>
鉄道の時間は前日に調べていた。1番は6時41分。2番は7時54分。
6時前に目覚めた。昨夜の酔いは殆ど残っていない。急いで身支度する。
JR桐生駅のコインロッカーに、荷物を預け、ウエストバッグとリュックの身軽な出立ちで、1番列車に飛び乗り一番前に座る。乗客は小生1人。
運転手が話かけてくる。
「どちらまで?」
「終点まで」
「まとうまで?一人で?」
「“まとう”て読むんですか?間藤からここまでマラソンで戻ってこうと思って」
「マラソンで?40キロ以上ありますよ」
「あるでしょうね」
「40キロを歩いたことがあるが、とてもきつかった、それ以来42キロを走るのがどんなに大変かよく分かるようになりました」
「40キロを歩いたのですか?それは大変。走った方が楽ですよ」
停車の度に何人かの乗客が乗ってくる。
1両編成のワンマンカーの運転手は気楽なもの。
九州から、ネットワーキングフォーラムにやってきたことを話したら
「島原は大変でしたね」やはり同業者の事故に、他人ごとではないのだろう。
谷は深くなり紅葉が次第に濃くなっていく。針葉樹の緑、銀杏や広い落葉樹の黄色、もみじの紅・・・ 久々のもみじ狩り、何と素晴らしい紅葉か。
「温泉が側にある駅があるそうですね、帰りに入ろうかと思ってます」
「水沼駅です。多いでしょうね。今日は日曜日だから」
次の駅で、トランクを開けて観光地図を取り出してくれた。
群馬の人は皆親切なんだな・・・
<樹木のない足尾の山々>
草木ダムの横は長いトンネルになっている。時間を計ってみた。5分55秒。
出たと思ったら川を横切って再びトンネル。2つ目のトンネルを抜けるのに6分40秒かかっている。次の沢入(問題2.何と読むでしょう)駅で、
「トンネルは、5242mです。7分近くかかりますよ」
次の沢入トンネルの中間に県境の標識があった。
足尾鉱山は、群馬県でなく栃木県だったのか・・・恥ずかしいことながら、その程度の知識である。
平成元年2月、館林から渡良瀬川のサイクリング道を通って渡良瀬遊水池の真ん中の堤防を走り抜け古河を経て東北本線の久喜駅まで走ったことがある。
足尾銅山の公害に対し断固として立ち向かった田中正造のことを知りたくて文献を探し回ったこともある。鉱毒の本山である足尾銅山、一度は行って見たいと思っていたのが、以外に早く実現した。
奥の方に樹木の生えていな山々が見え出した。あれが足尾銅山なのだろう。
8時5分、列車は終点間藤に到着。乗客の殆どは足尾駅で下りて小生を入れて4人が下車した。
列車(といっても1輌だけ)をバックに写真を撮ってもらいながら、
「どこにお出でですか」と聞くと
「いや、ここまでですよ。車を大間々に置いて紅葉を見に来ました。
折り返し帰ります」
なるほど、こんなもみじ狩りもあるのか。
トイレで身を軽くして出てくると、運転手が
「10時35分に2輌で、また登って来るから途中で逢うかもわかりませんね」と。
3人の乗客と運転手に見送られて、8時15分に出発する。
はげ山の写真を撮りたかったが、駅では電柱が邪魔になって、いいアングルがなかったので、少し下って振り向いてカメラを構えたところに、丁度列車が降りてきた。
「ぽ〜〜ん」と汽笛を鳴らして運転手と乗客が手を振ってくれる。
列車が入ったいい記念写真が撮れた。
<食べ物を求めて>
やがて国道122号線に出た。「桐生48キロ→、←日立21キロ」と標識がある。
桐生市役所と駅は、それほど離れていない。桐生駅まで48キロと見てよいだろう。
9時丁度、足尾トンネルに入る。足尾トンネルを抜けるとすぐ沢入トンネル、ここから群馬県東村になる。122号線のトンネルには、銘板がない。どこでも完成年月日、長さ、施工主を書いた銘板が貼ってあるのだが・・・
沢入(問題2.読みは?)は、みかげ石の産地、いたるところに石材店がある。
雲が切れ太陽がのぞいて暑くなってきたのでシャツを一枚脱いでリュックに詰める。
紅葉を楽しみながら、わたらせ渓谷をランニング出来る幸せを噛みしめながら快調に駆け下る。やがて空腹を感じてきた。
日曜日など、特にマラソンの実況放送がある日は、7時半ごろ朝食抜きで飛び出し、30〜40キロ走った後、朝食兼昼食をとりながらテレビでマラソンの実況を楽しむ。
これは小生の健康法の1つ。3〜4・体重が減るが、ビールを飲んで食事をたっぷりとると夜には元に戻っている。
駅には売店があるだろうし周辺には食堂もあるだろうと思っていたら、国道は、鉄道と川を挟んで対岸を通っており、駅や町から外れて走っている。
9時半、沢入駅前を通過。草木湖がここから始まっている。
わたらせ渓谷鉄道は、ここで右岸に渡り5,242mのトンネルで神戸駅近くまでもぐている。国道も右岸を湖に沿って下っている。
軽自動車を止めて、土手で笹を切っている人が、「お早うございます」と挨拶する。
「お早う、お精がでますね」とお返しする。すがすがしい気持ちになる。
パン屋の看板を見て急いで行って見たら、閉まっている。
さっきの人が、また笹を切っている。「早いですね」と。本当に気さくな人だ。
「いやあ、桐生まで行きます・・・」
ドライブインがある。ここは大丈夫と思ったがやはり閉まっていてがっかり。
10時丁度、富弘美術館に到着。上岡氏から聞いていたし入って見たかったが、生憎と団体が着いたばかりで長蛇の列。入館は諦めて写真を撮る。
すぐ下流に、大きな土産店があった。土産の陳列の奥に食堂がありセルフサービスになっている。かきあげそば(500円)を一杯食う。何杯もお茶をお変わりして元気回復。出口で焼きにぎり3コ(350円)を買って、10時25分出発する。
<水沼温泉で一休み>
10時45分、太郎神社を通過。太郎神社なんていうお宮は、初めて。何か謂れがありそうである。側に「上州銅街道、神戸宿」の看板があって銅街道と知る。(銅には、アカガネとふり仮名あり)
杲小学校がある。この字も難しい。問題3としよう。
国道122号線は、大体において良く整備されている。歩道もところどころではあるが設置されている。
花輪駅の近くで列車の響きを聞いたが人家や木陰に遮られて見えなかった。ひょっとすると朝乗った列車ではなかったか・・・
11時47分、水沼駅に到着。
「駅に温泉、駅が温泉。水沼温泉センター、せせらぎの湯」とあり、下りのホームが温泉の入り口になっている。
「からすの行水券を下さい」係はキョトンとしていたが 「!? 2時間の券でいいですか。400円です」
男湯、女湯、家族湯がある。売店があって食堂では、団体客がくつろいでいる。
湯室からは、対岸の景色が丸見え。紅葉の山々が綾錦さながらである。
12時20分、温泉に別れを告げる。桐生までは、約16.5キロ、2時間足らずの距離。できるだけ早い急行に乗りたいので、焼きにぎりをかじりながら走る。
紅葉も大分少なくなってきた。
1時14分、右手に大きな赤い橋があり福岡大橋とある。橋の中央まで行ってみる。
福岡という地名があるのかな!地図を見る渡良瀬川の対岸に福岡発電所がある。
国道122号は大間々の街に入り平坦となる。歩道があり走るのに支障はない。
また、空腹を覚え寿司屋やラーメン屋の看板がやたらと目に入ってくるのをじっと我慢の子、ひたすら桐生の駅を目指して走る。
列車と擦れ違う度に気をつけていたが、朝の運転手とは会えずじまいだった。
2時15分、桐生駅に到着。3万キロ達成のよき記念行事はかくて無事に終了した。
後は、急いで帰るだけ。ロッカーから荷物をだしてタクシーで新桐生駅に向かう。
予約していた急行は16時29分。1時間毎に運行しているようだったので、14時
29分なら急がないと間に合わないが道は渋滞していて遅々として進まない。32分に到着した。乗客が大勢いる。間に合った。浅草行きの急行は43分であった。予約を変更してもらってひと安心。
航空機も2便前に間に合って帰宅したのは、9時過ぎであった。
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