妻に用事あり <3>

(7)再入院の記

世の中は楽しい。食事は美味い。会社も楽しい。これが退院後の1週間の姿思えば、厳しい2週間だった。食い物に意地汚い日だった。
平成4年4月3日入院 4月16日退院。17日は、社員の結婚式。フランス料理だった。
手が震えて名前が書くことができない。

「あれ、手が動かない」

受付の着物美人は

「この人中風かしら」

という顔をしている。

「ごめん、少し病気で字が書けない。書いてください。」

と頼む。
それでもやはり社会復帰は嬉しい。しかし、再び世の中のごたごたに紛れ色々面倒臭い毎日になってきた。そして、2ケ月経過した。
6月30日無事に株主総会を終了して、7月1日ゴルフに行く。久しぶりだ。
相変わらずへただが天気は良い。楽しかった。
そして又会社に行く。7月3日の朝、少し腹が痛む。

「又、入院かな。」

女房に冗談を言う。

「驚かせないでよ。」

会社で会議中、急に激痛、会議をこっそり抜け出し、病院に行く。

「白血球が1万7千を超えています。」

「即入院です。」

と宣言される。病室が空いてない。

「特別室があるけど良いですか?」

「はい」

そこが凡人の悲しさ。買い物だと「いくらですか?」と価格を聞くのだが、見栄で聞かない。

「まあ、天神のホテルだと思えば」

先生はのたまう。入室した。部屋は広い。二部屋ある。16畳の部屋にベッドと応接セット、電話が付いている。
別室には台所とバス・トイレがあり、床にはカーペットが貼ってある。前に美空なんとかという歌手が入院していた部屋だそうだ。

「このまま長い間入院すると女房子供は、それこそおかゆ生活だぞ」

と心の中では思い、先生には

「よい部屋をありがとうございました。」

格好をつけて入院。
さて、病名はまったく同じ、症状も同じとくれば、当然治療も同じ

「ということは飯が食えないではないか」

そうです。風呂も禁止、この部屋はまったく無駄な事です。
良いのは時々看護婦の卵が部屋を見に遊びに来てくれることです。



(8)医師の記

昔、子供の頃餓えていた時期があった。
今でも早飯で、作るのに1時間、食べるのに5分と言われている。
女房につくりがいがないからという理由で手抜きを許したのは、偏にこの時代の餓えの思い出から食い物を人に取られないように、人より早く食べる努力の結果である。
次に何時食えるか分からないのだから、一刻も早く腹の中に収めておくという癖がついてしまったのである。
その頃に何時も、良い身なりで美味しそうな弁当や、珍しい菓子を持って来ていたのは、医師の子供だった。
そして、その頃から医師というのは、金持ちで何時も可愛い看護婦を膝に乗せており、恐い奥さんは毛皮のコートを着て、いつも買い物をするという偏見を私は持っていた。
しかし、だからといって、大学では医学部を受ける考えは一度もでなかった。
大学の受験は失敗の連続で、電子、電気工学、機械、物理、水産、経済、商学部を次々失敗し、14の大学を受験し、漸く法学部に合格し、卒業した。
それでも医学部だけは自分の住んでいる世界ではなく、外国のことのように思っていた。
しかし、現実の勤務医は大変である。
我がベンケーシー先生は入院中ほとんど休んでなかった。土、日もである。
多分日曜日は我がベッドを覗いてすぐに家に帰っていたにしても毎日顔を見せていた。
やはり、担当の患者の様子によっては、休めず遠くにも行けず、常にポケットベルを持ち歩いている。
そう言えば一度医師とゴルフを一緒にしている時に呼び出されて、途中で止めて帰っていったことがあった。
また、仕事とはいえ、患者の汚い腹や、耳の中や尻まで見るのは大変だ。
血を見るだけでぞっとする。やはり自分には良い商売ではないな。
勤務医がいやなら開業だけど、CTスキャナーとか、レントゲンとかエコーなど機械に頼る現在の医療技術では簡単には開業できない時代だし、すぐに患者が

「せんせ〜い、スキャナーないの〜」

ということであれば、結局医師に対する偏見もなくすことにした。故に今回の入院により、医師は尊敬するものとした。
到底、自分にはできないし、やはり今の仕事をこつこつするしかないか?
看護婦や医師については、いづれにしても大変な職業です。



(9)検査の記

会社勤めでも検査というと仕事の品質検査とか、会計検査とか中々煩いものである。
まして、人間というのは、大変精密なロボットと超高性能なコンピュータを内臓し、且つ、非常に壊れ易い厄介な代物である。
機械がどんなに進歩しても、これ以上の性能は持てないものばかりである。
単体では、力が強いとか、計算だけでは人間よりも圧倒的に早いとか、早く走れるものはある。しかし、総合的には人間は大変微妙で高性能である。
これを検査するのだから、大変だと思う。
昔はカンと触覚と症例経験が主なものだが、最近は機械に頼る事が多くなっているようだ。
(血液検査)
これは血が止まるかどうか、抗生物質が合うか等の検査
(エコー超音波検査)
これは腸や肝臓、胆嚢などを調べる。

「ここに石がありますよ。3つあるな」とか言う。
(レントゲン)

特に嫌なのは大腸通しといって、尻から管を入れバリウムをいれて、ついでに空気をポンプで挿入する。自転車のタイヤに空気を入れるみたいなもの。

「しゅっ、しゅっ」

腹が膨れたところで体を上下、左右、前後に動かす。
宇宙飛行士が前後左右や逆さまになる訓練があるが、まったく同じである。
こうすれば腸の壁にバリウムが着床し、レントゲンが映り易いそうな。

「げっぷを我慢して」

苦しくて、吐きそうで、おまけに炭酸まで飲まされる。
(CTスキャナー)
これはお馴染み人間の体を輪切りにして、画面に映し出すもの。まるで解剖図だね。
(胃カメラ)
腸内カメラで胃や腸の中をカメラでテレビにカラーで映し出す。

「ミクロの決死圏」という映画の世界そのものだ。

そして、入院するたびにまた、途中でフルコースで検査する。
先生がレントゲンやエコー等をテレビに映したのを患者に見せながら

「ここに水が溜まっているでしょう。これは腸に穴が空いているんですよ。」

と説明する。お陰で大変詳しくなって看護兵くらいにはなれるのではないかと思う。


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