妻に用事あり <4>

(10)入退院の記

さて、特別病室で過ごす事、2週間で無事退院した。
特別室での台所や風呂など何の役にも立たなかった。
それでも良い。翌日会社に行く。
明くる日は熊本に出張する。実は6月の電波の日に郵政省から電気通信に貢献したとのことで個人表彰されたのだ。
その中でパソコン通信、VANにも貢献との言葉があり、恐縮している。ただ、遊んでいただけですが、まあ、いいか。
その他、テレコムの委員会があり、出張したのだが、夜、懇親会があり、せっせと食べた。
パーティで人が話しをしている時にテーブルに向かい、皿に一杯乗せるのは今までの飢餓からであり、皆も許してくれたと思う。
そして、明くる日、退院後3日目の朝、再び、腹痛。
今回は、車に入院道具一式、所帯道具一式がすでに乗せてあり準備万端。
(というより、退院時に降ろしていなかった。)

「いってきま〜す」

自分で運転し、そのまま病院へ直行する。再び先生に会う。

「またですか」

とたんに嫌な顔をされる。
医師としても患者の病気が治らなければ面子に係わる問題ですよね。
コンピュータのSEでもバグを直して、動かしていて、バグが出て止まるとぞ〜とする。
気持ちは分かる。
しかし、患者は私だ。とにかく激痛だ。
病室はあるかと先生は婦長に聞いている。

「ありません」

「特別室は」

と先生は聞く。今、県で一番偉い人が入院しているそうだ。

「ほっ」

「別の特別室が空いています。」

再び、心配が小さな胸をよぎる。
しかし、前回の部屋の3分の1位の個室で一応電話も、応接セットもあり、差額費用も3分の1だという。

「いや〜、良い部屋だ」

身分相応でなくてはね。でも、やはり、また、再び、同じ症状、治療でそして、絶食が始まった。
そして今回の入院は3週間に及びうち19日間が絶食だった。
こういうことは忘れない。絶対に忘れないものだ。食い物の恨みは今後の一生に亙ってますます鮮明に記憶に残るものである。



(11)閉話休題の記

病院のベッドで患者でなく、患者の付き添い、それも奥さんがベッドに寝て、患者がソファーに座っていたら、見舞い客や看護婦はどう思うだろう。?
それは4度目の入院の時に起きた。
洗濯物を持参した女房が急にお腹が痛くなって、唸り出した。
そこで冒頭に説明した事態になった訳だが、あまり長いと医師も来るし、

「早く、家に帰れ」

とばかりに追い返した。後で看護婦に一生懸命に弁解する。
その夜、8時頃電話が鳴る。

「もしもし隣の篠崎ですが、...」

「はあ」

「もしもし、奥さんがですね。盲腸の疑いで樋口病院に入院しましたよ」

「はあ」

事情を言うと隣人もたまたま病院の副院長で、お腹が痛いと女房が相談にゆくと、直ぐに盲腸らしいと入院させて頂いた模様。
感謝、感謝、しかし、手術なら二つの病院では不便だしと考える。
看護婦長に相談する。

「部屋はありません。いつもベッド待ちの患者が沢山います。」

この頃私は牢ならぬ病名主だった。

「先生なんとかなりませんか?」

「今日、亡くなられた患者の後なら空いていますが」

「むむむ」

「病院のベッドでは当たり前か」

「お願いします。」

「女房には内緒にしとこう」

と言う訳で、夫婦が廊下を挟んで二つの部屋に入院することになった。
症状は腹が痛く、白血球が1万7千でと...

「どこかで聞いた事があるぞ」

「自分と同じだ」

そう言う訳で、女房も腕から点滴を受けて絶食と、私と同じ処置を受けることになった。
病院でも少し話題になったようだ。
又、おまけに我が女房は「冨田靖子」といい、どこかの女優と同じ名前である。

「夫婦で腸炎って、よほど変なものを食べているのね。」

通る人が覗いてみる事もあったようだ。
その隣は元広島の津田投手が入院している。



(12)癌と死の記

さて、3回の入院後、当然同じ経過を辿り、めでたく退院となる。
生があれば死があるのと同じで、死亡退院というのもあるわけだが、生きて退院した。
更に4回目の入院も、同様に新潟出張の翌日腹痛から始まった。
今回の入院でベンケーシー先生も、これは一体何だろうと考えたようだ。
又、色々検査し、長い絶食の上で、無事退院した。そして9月末にふと腹を見ると腹が膨れている。更に紫色に膨れているではないか。まるでたんこぶのようだ。
これは腸が炎症を起こし、腐ってきて腹の皮に接しているところが腫れてきたのだ。
慌てて病院に駆け込む。直ぐに医師による切開をする。
毛を剃り、部分麻酔をする。そしてメスを入れる。痛くない。緑色の膿が出る。
たいしたことないと思ったのはいいが、実は穴を空けたままビニール様のパイプを傷口に挿入する。
膿がでるようにする。そして、毎日これを入れ替える作業が1ケ月も続いた。
これは毎日手術されているようなものである。麻酔もせず、傷口を金の棒で広げて、パイプを挿入する。

「痛いよ〜」

しかし、これは序の口で、穴にメスのようなものを入れて腸をぐるぐる回して、レントゲンをとる。
そしてメスで腸の一部を切り取り、なにやら怪しげな瓶に大事そうに入れている。

「それなんですか?」

「いや、ちょっと検査です」

これを九大病院に送ったようだ。原因調査の為に検査したのだ。5回も同じ症状で入院と、繰り返すということは、やはり怪しげな病気にかかっているのではないかと医師が思っても不思議ではない。そう言えば最近見舞いに来られる人は、皆痛ましそうな顔をしている。
やはり、例の病気かと思う。女房に保険はいくら入っていたかと聞く。
家のローンはどの位あったけ。
会社の机の中は汚かったよな〜。まてよ変なものは入っていなかったっけ。
あれから、1週間は経つが医師は何も言わない。

「これは隠している。俺もこれまでか」


< とんだ 八郎 >  


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